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意外なライバル ①

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-05-17 19:16:53

お見合いの後、山口さんは時々食事に誘ってくれるようになった。

お互いに忙しい為なかなか時間が合わないなか、2度ほど食事に行った。

全く違う世界で働く山口さんの話は新鮮で面白かったけれど、なぜか私の心は晴れない。

「樹里先生。今日はお財布を忘れないでくださいね」

「わかってます。同じ間違いは2度しませんから」

師長が面白そうにかける声に、私は照れながら返事をした。

今日の私はヘリの担当で、依頼されたのは緊急搬送ではなくて転院の搬送。

救急病棟の患者が心臓の難しい手術を受けることとなり、循環器専門の病院へヘリで転院するのだ。

転院先の循環器センターは隣の県にあり、ヘリで40分ほどかかる。

「竹浦先生。今日の予定確認をお願いします」

準備をすすめるなか、フライトナースの桃子さんが声をかけできた。

「はい。お願いします」

搬送する患者は40代女性で、今は比較的状態が落ち着いている。

2時に病院を出発し、2時40分には転院先に到着の予定。

その後、引継ぎに1時間半程度かかるだろう。

「向こうの病院を出るのは4時半頃になると思います。駅までの時間と特急で3時間かかることを考えると、病院に戻ってくるのは8時頃ですね」

「わかりました。よろしくお願いします」

ヘリ搬送とは、あくまでも患者を運ぶのが業務。

タクシーではないのだから、引継ぎを終える私たちを待っていてくれる訳はなく、患者を降ろしたら帰ってしまう。

結果、私たちはヘリなら40分の道を陸路で4時間近くかけて戻らなくてはならない。

「少し待ってでも、連れて帰ってくれればいいのにね」

「その時間に緊急搬送があったらどうするんですか?」

冗談で言ったのに、真顔で答えられて、私は黙ってしまった。

陸路で病院まで帰ってくるからには、当然着替えも財布も持っていかなくてはならない。

以前、財布が入ったカバンごと忘れていき見ず知らずの人にお金を借りて帰ってきた前科が私にはある。

今日も気をつけないといけないな。

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